2014年4月14日月曜日

隣はsainsbury

 
「ケイト、私はここへ来る前演技のレッスンに通っていたんだ。
ある舞台のオーディションを受けたのがきっかけで、
なぜだか分らない。でも自分の細胞がとても輝くような気がして、
やったことも無いし、でもその監督となら何かとても人の心に触れられるものを作れるんじゃないかってそう思ったんだ」
 
ファッションウィークが終了したその夜に、私はケイトにイギリスに来た理由を少し話した。
 
私が最初にイギリスの地に降り立ったのは監督がこの世を去ってしまった2週間後のことだった。
 
ショックのあまりすっかり意気消沈してしまった私は
「もうイギリスに行って何もなかったらモデル辞めます」
とだけを事務所の社長に残し
日本を発った。
 
小さなキャリーバックと地球の歩き方と調べておいたイギリスのモデルエージェンシーのリストだけを持ち、無事にイギリスに着いたは良いが何のアポイントメントも無しに地図だけを頼りに調べたエージェントのいくつかの周りをグルグルウロウロするばかりで一向にノックをすることが出来なかった。
 
とうとうイギリスの街中にあるベンチに座って
私はイギリスに来てまで何をやっているんだと静かに監督のレッスン中の言葉や先生たちの言葉を思い返していた。
 
何をこんなにビビってグズグズしているのか。何をやっとるんだと。
時間は15時半になろうとしていた。ほとんどの事務所のオープンコール(モデルが事務所を自由に訪れて良い時間)が16時までであった。
私は地球の歩き方を捲り、ここから一番近い事務所はどこだと一目散に向かった。
足早に足早に。
ここだと飛び込んだ先は今なら分るがsainsburyというスーパーマーケットだった。
キョロキョロキョロキョロキョロキョロ
 
事務所はsainsburyの隣であった。
たまたま事務所の前で煙草を吸っていたヘッドブッカーがその一部始終というか全始終を見ていた。
ブックを持った黒髪ロングヘアのアジア人が勢いよく事務所をスルーし、sainsburyに入って大きな何かを探しているのだ。
「うちの事務所を探しているんじゃないのか?」
 
私は失礼ながらにも「あなたは事務所の人ですか?」と尋ねた。
クスッと(笑ったように見えた)隣の2階の事務所に連れて行ってくれた。
彼女にブックを渡し、一人目のブッカーと面接
昔習った英語を引っ張り出し、何を言ったか覚えていないが、
コレクションに出たい。世界を回りたい。
と今伝えられることを全部伝えた気がする。
そして次、次、次と合計4人のブッカーと面接をし、所属が決まったのだ。
嘘かと思った。
「急いで通り過ぎてスーパーマーケットの中で道に迷っている姿が本当におかしかった」
と多分そう言っていた。
 
言葉が通じないから伝えなければいけないことがあった。私はヘッドブッカーに約束をした。
 
まだまだまだまだ